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2002.6.1 えいれーねー 90号 「平和への努力 −2002年入学式式辞−」 校長 長埜 紘

あなたがたを迫害する者のために祝福を祈りなさい。祝福を祈るのであって、
呪ってはなりません。
喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣きなさい。
互いに思いを一つにし、高ぶらず、身分の低い人々と交わりなさい。自分を
賢い者とうぬぼれてはなりません。
だれに対しても悪に悪を返さず、すべての人と平和に暮らしなさい。
愛する人たち、自分で復讐せず、神の怒りに任せなさい。「『復讐はわたし
のすること、わたしが報復する』と主は言われる」と書いてあります。
ローマの信徒への手紙 - 第12章 14~19節 -

 新入生の皆様、入学おめでとうございます。御父母の皆様、大切な御子弟をICU高校にご入学させていただきまして、ありがとうございます。私たち教職員一同、新入生一人一人が充実した高校生活を送ることができますように、できるだけのことをしていきたいと思っております。今後ともよろしくお願いいたします。
 さて、今日選びました聖書の言葉は、さきほど新共同訳の日本語とNEW ENGLISH BIBLEの英語で朗読していただいましたが、かつてキリスト教徒を迫害していてイエスからの啓示を受けて使徒となったパウロがローマの教会に当てた手紙の一節です。この中で、「できれば、せめてあなたがたは、すべての人と平和に暮らしなさい」If possible, so far as it lies with you, live at peace with all men.という部分が、私には重く響きます。20世紀は「戦争の世紀」と言われ、世界中の人々が巻き込まれた大きな戦争を経験し、政治思想や宗教や民族の違いのためのさまざまな争いで多数の犠牲者が出て、世界中に何千万人もの難民がいるという状況になりました。私たちは、21世紀こそは「平和の世紀」となることを願って2001年を迎えたはずだったのですが、9月11日にアメリカで同時多発テロ事件が起こりテロ撲滅のためという大義名分の下にアフガニスタンに空爆が行われ、テロとは無関係な人々の命も失われていくという状態が最近まで続いていました。また、イスラエルとパレスチナの争いもますます激しくなり、日常的にパレスチナ側の自爆テロとその報復のためのイスラエルの攻撃に関するニュースが報道されています。聖書のマタイによる福音書の「山上の説教」の中でイエスは次のように言っています。
「柔和な人々は、幸いである。その人たちは地を受け継ぐ」(NEW ENGLISH BIBLEではHow blest are those of a gentle spirit: they shall have the earth for their possession.)つまりこの世の国々を治めるのは優しい心gentle spiritをもった人々であるということなのですが、アメリカの大統領やイスラエルの首相は、果たして“gentle spirit”(優しい心)をもっているのでしょうか「すべての人と平和に暮らしなさい」とストレートに言えずに、「できれば、せめてあなたがたは」と強調して言わなければならない状況にますますなってきているのではないでしょうか。
 この式辞のあとで歌う校歌の歌詞に「Our souls be all the same/ We can work for peace abiding(私たちの魂は、みなひとつのはず、だから私たちは永遠に変わらぬ平和のために働くことができる)」とありますように、ICU高校では、平和への努力を続けようと決意し、将来世界平和のために貢献する人を育てたいと願っています。しかし、現在の混乱した世界の情勢を考えますと、平和への努力を続けて平和をつくり出す人になりましょう、などと単純に言うことはとてもできそうにありません。
 今年度のICU高校のF入試の作文課題は、「現在、世界はさまざまな面で混乱の時期をむかえています。あなたが感じる混乱を指摘してください。また、そのような社会情勢の中で、あなたが生きていくにあたり、どのような力を身につけていくことが必要であると思いますか。あなたの考えを述べてください。」というものでした。F入試に合格して新入生として今日ここにいる皆さんの作文のうち50編近くを読ませていただきました。狂牛病や少年の凶悪な犯罪などさまざまな問題が取り上げられていましたが、やはりアメリカにおける同時多発テロについて書かれている作文が最も多く、中学生であった皆さんの心にも、深い傷痕を残していることが窺い知れました。しかし、大人の私たちと違って、皆さんは、ショックを受けて社会情勢が混乱していることを認めても、決して悲観的になることなく、どの作文にも、自分たちの努力によって世界に平和がもたらされるという信念に満ちていました。イマジネーションを働かし、互いの違いを認め合い、理解し合い、信頼し合っていけば平和な世界になるというようなことが、さまざまな表現で述べられていました。F入試で作文を書いた皆さんだけでなく、G入試J入試に合格した皆さんも、もし同じ課題で作文を書いていたとすれば、多くの人たちは同じような結論であったと思います。15、6歳の皆さんにとってはこれは当然であるのかもしれませんが、読んでいる私は、力づけられ心に希望が湧いてくるのを感じました。はじめは、どんなことが書いてあるのかちょっと読んでみようというような軽い気持ちで読みはじめたのですが、皆さんの作文の内容に引き込まれていって、50も作文を読んでしまった訳です。平和をつくりだすことは並大抵の努力ではできません。さきほどの聖書の言葉を借りれば、「迫害する者のために祝福を祈り」、「喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣き」、「互いに思いを一つにし」、「だれに対しても悪に悪を返さず、すべての人の前で善を行うように心がけ」なければならないのです。しかし、皆さんの作文を読んで、若い皆さんならそれができる、また私たち大人も決して希望を失ってはならないと心から思いました。
 また、作文の中には、これから多くのことを学び、いろいろな力を身につけていきたいという抱負もたくさん述べられていました。ICU高校はそれが十分にできる場所であると確信しています。世界の30の国々地域からの帰国生、国内では10の都県からの人たちがここに集まっています。2年生、3年生を合わせますと世界の40近い国々や地域からの帰国生に出会うことができるのです。私たち教職員も、さまざまなバックグラウンドをもった生徒たちのために、全力を尽くしていこうと思っています。
 新入生の皆さん、上級生や私たち教職員とともに、今日からICU高校の新しいページを開いていきましょう。
 入学、おめでとうございます。

 

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