スペシャルインタビュー Special Interview

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ICU高校に「宇宙」人来襲!? 物理学者 村山 斉(むらやま ひとし)さん ICUHS2期生

vol.01 後編−1/2 教科書を鵜呑みにしない態度。 面白がってどんどんやる姿勢。

− 現在の専門にはどのように進んだのですか?

村山 ちょっと紆余曲折ありました。入った研究室が自分がやりたかった分野の研究をやってないわけ。大学院生の間は、つらかったですね。皆さんも大学に行く時にはよく調べた方がいいですよ。ほんとにそこが面白そうな大学かどうか。結局、やりたいことをやるためにアメリカに行こうと思うようになって、東北大に2年間務めたあと西海岸のバークレーに行きました。2年任期のポスドクという立場なので背水の陣だと思っていたら、バークレーの大学で「アシスタント・プロフェッサーのポジションがあるから応募しないか」と誘ってもらえたんですね。それで居着いちゃった。

− そのあたりで現在の専門を見つけたわけですね。

村山 最初は素粒子をやるつもりだったんですけど、うまくいかずにいろいろ手を出して、自分の分野がよく分からなくなった頃、ちょうど素粒子と宇宙の関係が深くなってきたんです。面白そうだなと思って進んできたら、運良くその分野がずっと成長してきて面白くなりました。

− では生徒からの質問タイムを。

櫻井(生徒) 日本の学生と海外の学生と、どういう違いを感じますか?

村山 日本の学生は質問しない。研究者もそう。講演をしてもちゃんと聞いているのかなと思うぐらい違います。アメリカだと、恥ずかしがらずどんどん質問する。極端な話、アメリカの学生は、自分が分からなかったのはあなたが悪いというような態度で質問する。もちろん、どっちも極端なので、本当は多分、中くらいがいいんだと思うけど。

鈴木(生徒) 日本って、いいところないですか?

村山 日本のいいところは、相手の思っていることをすごくおもんばかるところ。アメリカだと黙っていると、「あいつは自分の言うべきものを持ってないバカだ」ということになる。日本は、「単にシャイなだけかもしれないし、疲れているのかもしれないし」とか、そういう思いやりってありますよね。それから、規則をちゃんと守ること。ごみは落ちてないし、治安がいいし。そういうとこが日本は素晴らしいですね。

遠藤(生徒) 宇宙を研究する一番の動機は?

村山 宇宙の話が自分の深いところにかかわっているような気がするんですね。どうして始まったんだろうか、これからどうなるんだろうか、自分が今ここにいるのはどうしてだろうか。しかも、まだそれが分かってないことに興奮します。自分がやっていることで、少しでもこういうことが分かるようになったらすごいなという、そういう気持ちでやっているんじゃないでしょうか。

村山(生徒) 今、大学に行くために勉強している高校生たちに何を求めていますか。

村山 2つのこと。まず1つは、教科書に書いてあるから正しいと思ってはいけない。例えば、「真空で光は直進する」と書いてあるでしょ。あれ、間違いです。実は、重力で引っ張られると、光は曲がるんです。それから、「万物は原子である」と書いてあるけど、あれもウソですよね。暗黒物質があるので。

鈴木(生徒) あれ、ほんとにあるの?

遠藤(生徒) ありますよ。

鈴木(生徒) 絶対あるの?

村山 絶対ある。まだつかまってないけど。……何の話をしたんだっけ?

村山(生徒) 学生に求める……

村山 そうそう。今の件はすごくいいんですよ。「こうですよ」というときに、「ほんとにそうかな?」と自分で考えるということが、多分第一歩じゃないかと思います。

それともう1つは、「すごく面白いな」と思うものを見つけたら、「面白い、面白い」と興奮して、それをやろうとすること。やらなきゃいけないと思ったら、絶対どこかでめげますよ、人間。ほんとに面白いと思っていたら、どんどんやれるので。その2つだと思います。

安部(生徒) 僕は普段から、地球はいつなくなるか分からないと言っていて、明日死んでもいいように楽しいことしかしたくないと思うんです。よく、そういうことを主張すると、苦しいことの積み重ねの先に成功があるとか言われますけど、そう思いますか? 

村山 その2つの意見の中間だと思います。僕は音楽も結構好きだけど、楽器って、一生懸命練習しないと、自分で納得できるように弾けないですよね。音楽が好きでちゃんと弾けるようになりたいという気持ちがあると、結構つらい練習でもやっちゃうわけですね。

さっきのダークマターの例でもそうだけど、「もしかしたらこうかな」とか、自分の説を持っていくでしょ。99%は、5分後にはつぶれますね。残り1%が1ヶ月ぐらいしたら、そのまた半分ぐらいはつぶれますね。やっと論文になったなと思うと、3年後に実験が出てつぶれるわけです。ほとんどうまくいかない。ほとんどうまくいかないんだけれども、その中にほんとのことがあったらすごいじゃないですか。そうだったらすごいなというふうに思うから、それだけ全部つぶれていてもやっているわけですね。

例えば僕は雑用嫌いなんですよ。日本の書類の典型で、枠があって中に字を入れなきゃいけない。そういう書類を書くのがすごく嫌なんだけど、「それをやらないと、この研究ができないな」と思うと、それに思い入れがあれば、やっぱりやっちゃう。それでやらないなら、多分そこまで思い入れてないんじゃないかなと。 ほんとに面白いことというのは、つらい思いをしていなくて、誰でもすごく努力しているんだと思います。面白いことで十分価値のあることの場合は、そのためにやらなきゃいけないことが苦しいことであっても、自然にやり始めてしまう。それぐらい面白いと思っていれば、多分苦にならないんだと思います。

>> 後編(2)へつづく

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